真実の重み 『ヒトラーの贋札』

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国家による史上最大の贋札(がんさつ)事件と言われる、“ベルンハルト作戦”を題材にしたヒューマンドラマ。

実際に強制収容所で贋造(がんぞう)に携わった印刷技師アドルフ・ブルガーの著書が原作です。

ヒトラーの贋札 DIE FALSCHER/THE COUNTERFEITER 2007年ドイツ/オーストリア制作 96分

あらすじ: 1936年のドイツ、ベルリン。パスポートや紙幣など、あらゆる偽造を行うプロの贋作(がんさく)師サリー(カール・マルコヴィックス)。犯罪捜査局の捜査官ヘルツォーク(デーヴィト・シュトリーゾフ)に捕らえられた彼は、マウトハウゼン強制収容所に送られる。そこは犯罪者の送られる刑務所ではなく、ユダヤ人を対象にした収容所だった。(シネマトゥデイ

本年のアカデミー賞外国映画賞受賞作品です。

もっと長いのかと思っていましたが、サクッと見れる96分でした。

大脱走』のようなトリックと駆け引きのスリルではなく、

もっと人間臭いドラマでした。


原作者のブルガーももちろん登場するのですが、贋作師サリーの視点で描かれています。

家族も居ないサリーは、捕らえられるまで自由気ままに暮らしていましたが、

収容所では集団行動はしないものの、周囲の仲間の面倒を見てやるようになっていました。

器用で要領もよかった彼は、ドイツ兵ともうまくやっていましたが、

信念を持つブルガーの影響を受けてか、サリーの心は揺れ動き始めます。


ナチスのために偽札を作らなければ仲間が殺される。

しかし作ってしまえば、ナチスを助ける結果となり、新たな犠牲者が増える。

この葛藤を大げさに見せるのではなく、サリーとブルガーを静かに対決させる事で、

よりリアリティが出ている気がします。


敗戦の気配が濃厚になりドイツ兵が撤退し始めた時、

今まで散々イビられ、可愛がっていたコーリャを殺した兵士ではなく、

印刷班を優遇していたヘルツォークを殺したのは意外でした。

自分たちに理解を示すような偽善者ぶりが許せなかったのか、

彼に卑屈な思いをさせられたことが許せなかったのか。

そして印象的だったのは、

ドイツ兵が撤退した後他の囚人たちが、印刷班の待遇の良さに同じ囚人だと信じないところ。

他の囚人たちがどんなに酷い扱いを受けていたか、

自分たちがどんなに恵まれていたか、

しかもそれは、結局ナチスに協力したから得られたのだという事をリアルに認識させられます。


最後にモンテカルロの海岸で、サリーは一体何を考えていたのでしょう?