『潜水服は蝶の夢を見る』 詩的に綴られた実話
昨年のアカデミー賞の塗りつぶし。
脳梗塞で左目のまぶた以外の自由が効かなくなってしまった男の実話の映画化で、
監督賞・編集賞ノミネートでした。
潜水服は蝶の夢を見る LE SCAPHANDRE ET LE PAPILLON/THE DIVING BELL AND THE BUTTERFLY 2007年仏/米制作 112分 あらすじ: 昏睡状態から目覚めたものの、左目のまぶた以外を動かすことができないエル誌編集長ジャン=ドミニク・ボビー(マチュー・アマルリック)。意識ははっきりしているにもかかわらず言葉を発することができない彼に、言語療法士のアンリエット(マリ=ジョゼ・クローズ)はまばたきでコミュニケーションを取る方法を教える。(シネマトゥデイ)
凄い映画ですよね。
片目しか動かせない男の静かな話が、
退屈するどころかその世界に浸りきってしまいました。
素晴らしいのは、昏睡から覚めた彼にすぐ言語療法士が付いて、
コミュニケーションを取る手段があることを伝えたことですね。
当たり前のステップなのかもしれませんけど、彼を絶望から救った手立てだと思います。
いつまでも悲嘆していないで、本を書くことを前向きに決めたボビーも大した人物だと思います。
20万回の瞬きで話す方も、聞きとる方も大変な作業だったでしょう。
印象的だったのは、ルルドの話ですね。
カトリックの聖地で、奇跡の泉があると言われています。
無理やり教会に連れて行かれたボビーは、司祭からルルドへの巡礼を薦められますが、
奇跡の街ルルドは車椅子で溢れていました。
自分がもし身体が悪ければ、藁にもすがる思いで訪れる気持ちは理解できます。
しかし健常者から見るとかなり異様な雰囲気で、彼の戸惑いも納得できました。
このような回想・幻想・現実が入り乱れ、淡々と話は進みます。
特に重苦しい訳でもなく、感情的な訳でもなく、
事実をありのまま受け入れた様子を静かに描いています。
主演のマチュー・アマルリックは噂どおりに素晴らしい静かな熱演で、
彼の父親役のマックス・フォン・シドーの存在も重要でした。
静かで美しく、時に幻想的なジュリアン・シュナーベル監督の映像が、
生々しい現実を詩的に変えています。
この邦題もピッタリです。